Sugarless




<英二サイド>











何で?何でおチビが大石にキスするわけ?


可笑しいじゃん、どう考えてもさ。


今おチビと付き合ってるのは俺でしょ?


どうして?






大石が保健室から出てくると、すぐにその胸倉を掴んだ。



「英二っ?!…今まで此処に居たのか?」


「あぁ、居たよ。大石が一緒だったから入らなかったけどね。」



白々しい…。このダブルスパートナーを恨んだのは、今までなかったかもしれない。



「……何ですぐに来てやらなかったんだ?」



胸倉を掴んだ俺の手を解きながら、心配そうに見つめてきた。



「別に?おチビが体調悪い事に気付かなかっただけ。」


「………。」



あ、大石が怒ってる。


だって本当の事だし?



「ね、大石っておチビの事好きなんでしょ?」



俺の言葉に顔を赤める大石…本当、珍しい。



「そ、そんなわけないだろっ?…大体、越前にはお前が居るじゃないか。」



どこか諦めたような大石に、俺は腹の底から笑いたくなった。



「くっくっ……別に?俺のじゃないよ。何だったら大石にあげようか?」



要らなくなったからあげる。と、兄が弟に玩具を譲るような感覚で言う。



「!?…お前はっ越前の事が好きじゃないのかっ?!」



シン…とした廊下に響く怒声。…煩いな、先生が来たら面倒じゃん。



「ぷっ…何それ?俺がおチビの事を?…そのうち嫌でも解るよ、俺の考えてる事が。」



苦汁を飲んだような表情の大石は、俺の横を通りながら一言呟いた。



「越前を辛い目に合わせる前に解放しろ…あの子はお前の表面しか知らない。」


「さぁ?どうしよっかな?俺の勝手だしね。」



一瞬、またキレるかな?って思ったけど、そのまま大石は行ってしまった。



「…まだまだ余興は楽しまないとねん♪」



こんなに楽しいオモチャはなかなか見つからないんだよ?


まぁ、こんな考えを真面目な大石に理解してもらおうなんて思ってないけど。



「さてと…眠り姫に会いに行きますか。」



保健室の扉を開けて、ベッドに近づく。


本当、壊したくなるよな…。



「ねぇ、おチビ…起きてよ?」


「んぅ…っ英二先輩!」



満面の笑みで俺の首に抱きつくおチビ。


首痛い…離れてくれないかな………。



「さ、もう帰ろう?先生に言っといたから。」


「うんv……有難う、先輩。」



うっすらと頬を染めるおチビに、俺は確信した。


――この子はもう俺に溺れている――



「ん〜ん、礼には及ばないにゃvほら、おんぶしてあげる。」


「…えっと…お願いします。」



おずおずと背中に乗るおチビ。


軽い…こんなに軽くていいわけ?



「おチビって軽いね〜?これなら走って行けそう♪」



俺へ警戒心の欠片も見せないおチビが、にっこりと力なく微笑む。


…精神的に限界なのかな…?



「じゃ、行こうか。」



おチビに負担が掛からないよう、ゆっくりと歩き出す。


パタン…と閉まった保健室のドアは、俺達の関係の崩れの合図だったのかもしれない。


ゴメンネ?オレニハキミヲ、アイスルコトハデキナイカラ………


無情で無責任な俺は、きっとおチビを苦しめる。


未だ夢見心地なおチビを、一気に地の底に落とす。


それでもまだ俺を愛してくれてたら…俺から君に『
愛してる』って伝えるからね…?